相続対策(個人の終活/事業承継)について
◆個人の終活としての相続対策
生前に、財産を整理/承継(承継方法指定)/管理することで、老後の生活の安定と、死後の相続人による遺産分割紛争の予防を、目的とする法務です。個人の自宅不動産や預貯金など一般的な財産を軸に、当事務所で取り扱う各種手続を比較しています。
なお、各種手続の実行には、財産所有者の意思/判断能力が必要です。意思/判断能力が不十分である場合、成年後見制度(法定後見)の利用を検討することになります。
◆事業承継に関する相続対策
事業承継に関する相続対策は、個人の相続対策と比べて法律関係・税金関係・事業状況など検討すべき要素が多く複雑である為、計画的に行う必要があります。主に事業に提供している不動産、会社の登記(役員人事と株式承継)について紹介します。
相続対策 1.財産の確認と整理 (財産目録の作成など)
生前に財産を整理し、財産目録を作成して遺産を明らかにしておくことことは、遺言書を作成する際や、死後の遺産分割協議を円滑に進める為に役立ちます。財産に関する資料を整理し、また未処理の登記や手続などを済ませておくことは相続紛争の予防になります。
◆財産目録の作成
預貯金や動産、不動産、債権、債務などの状態を確認し、整理して目録を作成します。通帳や証書、動産の鑑定書等、各種の契約書や証書、不動産の権利証や評価証明書、が目録作成の資料になります。
◆未処理の不動産登記
最新の不動産の登記事項証明書を取得して名義などの権利関係を確認します。よくある未登記の事例としては次のものがあります。
1.家屋の登記(家屋番号がない、所有権保存登記してない)をしていない。
2.氏名変更(結婚や離婚)、住所変更(転居や区画整理による地番変更)の登記をしていない。
3.返済し終わっているのに住宅ローンの登記(抵当権抹消)をしていない。
4.登記名義が死亡した親や祖父母のままの状態で相続登記していない。
→ 相続登記はこちら
5.兄妹や他人との不動産の共有状態を解消する登記をしていない。
相続対策 2.財産承継の方法(贈与・売買・遺言・相続(遺産分割))について
◆予防法務としての財産承継
財産の承継は、死後の相続手続(相続人による遺産分割)によって行うのが一般的ですが、生前に財産所有者が自由意思で行ったり、承継方法を遺言によって指定したりすることもできます。財産所有者 自ら承継を定めることは、自身の老後の生活安定と、将来の相続紛争予防に寄与します。
◆財産承継の方法の比較
手続種類 | 指定形態 | 指定の 実現性 |
税金負担 | 他の相続人 の同意 |
リスク要因 |
生前贈与 | 契約 | 高 | 高 | なし | 当事者の意思能力 |
売買 | 契約 | 高 | 中〜低 | なし | 当事者の意思能力 |
負担付贈与 | 契約 | 高 | 中〜低 | なし | 当事者の意思能力 |
遺言 | 遺言書 (単独意思) |
中 | 低 | なし | 遺言者の意思能力と遺留分請求 |
死因贈与 | 契約 | 高〜中 | 中〜低 | なし | 当事者の意思能力 |
相続 (遺産分割) |
指定不可 | 指定不可 相続人合意 |
低 | 全員必要 | 相続人間の利害対立による紛争 |
※実現性と税金負担は、当事務所が考える大雑把な目安です。
◆生前贈与
生前に承継予定者と贈与契約して財産承継します。生前に全て完了する為、確実に実現できます。贈与税を筆頭に税金が高額になりますが、特別控除制度の利用して税金負担を軽減する、または贈与額を抑える(少ない共有持分にする)ことで税金負担を抑える、ことは可能です。契約時の贈与者の意思能力不足による契約無効がリスク要因になります。
◆売買・負担付贈与
生前に承継予定者と売買契約して財産承継します。生前に全て完了する為、確実に実現できます。当然ですが売買代金が必要で、売主は代金について譲渡益があれば譲渡所得税が発生します。しかし売主は代金を取得するので生活資金などに利用できます。また余った金銭(又は預貯金)は将来の遺産分割時に分割し易いメリットもあります。契約時の売主の意思能力不足による契約無効がリスク要因になります。
負担付贈与は売買代金でない負担(定期交付金や住宅ローンの債務引受など)と引換えに行う贈与です。贈与税計算にあたり負担(引換え給付)を差引けるので贈与税は軽減できます。他は売買と概ね同じです。
→ 家族間の売買についてはこちら/負担付贈与についてはこちら
◆遺言・死因贈与
生前に遺言書(承継方法を指定)を作成して、死後に財産承継します。財産承継の執行が死後になる為、遺言書の紛失、遺言内容に関する紛争、遺留分請求などの要因により実現できないリスクがあります。相続税が適用されるので贈与税に比べて税金の負担は軽いです。
死因贈与は、契約に基づいていること、不動産であれば仮登記名義を得られることが遺言と異なります。この違いにより実現性は高くなりますが、一部贈与に関する税制度が適用されるため税金の負担は重くなります。
◆相続(遺産分割)
生前は何もせず、死後に相続人が遺産分割して財産承継します。遺産分割協議は相続人全員の合意が必要なので、相続人間で利害が対立して紛争になるリスクがあります。相続税の基礎控除とその特例制度を利用できれば、節税効率が最も高いと思われます。また上記の相続対策1(財産目録の作成や未処理手続の履行)をしておくと、遺産の有無で揉める可能性が下がり分割方法に集中できる為、協議を進め易くなると思います。
→ 不動産の相続登記について/預貯金などの遺産承継事務について/財産目録の作成について
◆検討の例
1.生前贈与で生前に承継を完了させて、将来の遺産分割協議を避ける。
2.施設入所などで空き家になった自宅を売却し、代金を生活費に充て残金を遺産分割する。
※家族信託や任意後見を利用しておけば、意思/判断能力が低下した後でも自由に売却可能。
3.親子間の売買(負担付贈与)で生前承継と、同時に老後資金(住宅ローン債務引受)を得る。
→ 家族間の売買についてはこちら/負担付贈与についてはこちら
4.生前贈与などで保有資産を減少させて、将来の相続税の対象財産を減少させる。
5.夫婦間の生前贈与で互いの資産格差を均等にし、相続税の基礎控除額を最大限利用する。
6.将来相続人となる者以外の親族等と不動産を共有している場合、共有状態を解消しておく。
7.遺言書を作成(遺産分割の具体的な内容を指定)し、遺産分割協議を避ける。
8.自宅について死因贈与の契約をし、生前に同居している子名義の仮登記をして実現性を高める。
相続対策 3.家族の財産管理(後見制度・家族信託)について
◆予防法務としての財産管理
意思/判断能力が衰えた家族の財産管理は、本人資産の不明瞭な散逸を防いで生活を守ること、資産状況を明確にして将来の相続紛争(遺産の範囲)を予防すること、に寄与します。
◆手続の比較
種 類 | 本人状態 | 管理方針 | 管理人指定 | 監督人 | 後見人等の報酬 |
法定後見 | 意思能力が ない/不十分 |
現状維持 /一部制限 |
家裁指定 ※1 |
家裁判断 ※2 |
親族なら任意、弁護士・司法書士等なら必須 |
任意後見 | 意思能力が 十分ある |
契約において任意に設計 | 必須 | 監督人は必須 | |
家族信託 | 任意 | 任意 |
※1.財産が多額でない、家族の反対がない等の場合、推薦した家族が選任される可能性があります。
※2.財産や家族の状況により家庭裁判所の判断に基づいて選任されます。
◆法定後見(成年後見・保佐・補助)
既に意思/判断能力が衰えてしまっている場合は法定後見を利用することになります。財産管理の内容は衰えの程度や状況によって異なります。家庭裁判所に選任された成年後見人等が管理する為、財産が不明瞭になることはありません。
◆任意後見
契約で予め財産の管理人(任意後見人)と管理方法等を定めておき、元気なうちは自分で財産管理し、意思/判断能力の低下後に家庭裁判所選任の監督人の下で財産管理します。契約によって具体的に定めた管理方法の範囲内で柔軟に財産の管理・処分できるのが特徴です。
法定後見と比べて後見事務の内容を設計できる点が異なります。また家族信託と比べた場合、任意後見契約は公正証書ですること、任意後見開始にあたり家庭裁判所で選任された監督人が任意後見人の事務を継続的に監督(報酬も発生)すること、任意後見が開始するまでは特に制限がないこと、等の違いがあります。
◆家族信託
預貯金や自宅を信託財産として、家族(子)に管理運用してもらいながら、自分や他の家族(配偶者など)が生活費交付や居住(管理を含む)を受益権として享受する信託契約をします。契約書で管理人と管理方法などを具体的に定めておきます。信託契約は財産所有者(委託者)の状態(意思/判断能力の低下、死亡)に関係なく契約で定めた終了事由が発生するまで継続しますので、財産の安定した管理運用ができます。
任意後見と比べて、監督人(家庭裁判所の選任)がなくても財産管理が可能で、家族間だけの契約で行えることがメリットです。信託財産の管理人に対する監督人設置は任意ですが、安定した管理の為、当事務所では家族を監督人にするなど設置を推奨しています。
相続対策 4.その他の事務(死後事務・見守り事務)
◆死後事務
死後の遺産承継以外に関する事務です。葬儀・埋葬の方法を指定すること等は財産承継に関することではない為、遺言書に記載しても法律的な拘束力がなく執行されるかどうかは任意になります。そこで死後事務を行ってくれる相続人がない時には、別途 死後事務委任契約をしておく必要性があります。
◆見守り事務
一人暮らし、任意後見開始前の高齢者等に対して、必要に応じて財産管理を補助し、または定期的な安否確認をしたりしてサポートする事務です。
相続対策(事業承継) 5.事業用に提供している個人名義の不動産
事業用に提供している不動産等が個人名義である場合、それは個人の財産なので遺産として遺産分割の対象になります。会社名義の場合は会社の財産なので遺産分割の対象になりません。よって個人名義の場合は、遺産分割協議の結果によっては事業に不都合が生じる可能性がある為、対策が必要になります。
◆検討の例
1.相続時精算課税制度を利用して後継者に生前贈与する。
2.会社に対して売却して名義変更する。
3.遺言書を利用し、後継者に対して相続させる旨を指定する。
4.民事信託を利用して信託財産にし、受託者を後継者(又は会社)にして事業目的で管理運用する。
相続対策(事業承継) 6.会社の取締役人事 (業務執行権の移転)
株式会社は、取締役(業務執行)と株主(株主総会)が法律の構造上、分離しています。複数の人が出資して株主として参加し、株主総会の決議によって取締役を選任する仕組みなので、取締役の地位は相続の対象ではありません。よって(代表)取締役の交代は、株式の相続とは別に行う必要があります。合同会社は原則として社員だけで構成されますが、業務執行社員や代表社員を定めている場合は株式会社と類似の手続をします。
実務では、相続によって業務を止められないので、生前に代表権のない取締役として後継者を追加しておき、タイミングを見て代表取締役に昇格させて交代し、最後に相続によって株式を承継して、業務執行と株主の承継を完了させるケースが多いです。会社の実情に応じて手続を進める必要があります。
なお、取締役や業務執行社員は会社の登記事項です。よって追加や交代もしくは退任を行った時は変更登記が必要です。
相続対策(事業承継) 7.株式の承継 (会社の運営管理権の移転)
株式は株主総会における議決権で会社を運営する上で重要なものです。会社の経営者が個人名義で保有する株式は、将来、遺産として遺産分割の対象になる為、経営に関与しない相続人が承継して、株主総会において後継者の経営に反する議決権を行使される事態にならないよう対策する必要があります。特に取締役の人事(業務執行権)への影響が大きく、株主総会を支配できるだけの株式数を後継者が確保できるようにする必要があります。
また株式の評価額は、大雑把に言うと会社の純資産額(資産から負債を差引いた額)です。単純に資産規模が大きく負債が少ないと株式の評価額は大きくなります。株式の評価額が大きいと遺産の大部分を株式が占める可能性があり、遺産分割を難しくする要因になりますので、状況に応じて生前に承継方法などを検討する必要があります。
◆検討の例
1.生前に後継者に譲渡する。
2.遺言書を利用して相続人と遺産分割方法を指定する。
3.民事信託を利用して信託財産とし、受託者を後継者にして管理運用させる。
4.種類株式を利用して一定数の株式を議決権のないものにする等、株式の性質を変え対応する。
5.生前に株式の一部を会社に譲渡する(会社の自己株式は議決権が行使できない)。
6.株式の分割/併合/消却をして、譲渡や分割に適した数や評価額に変更する。
相続対策(事業承継) 8.別会社の設立/自主廃業など
新会社や持株会社の設立、会社分割などを利用した事業承継もあります。
また後継者がない場合、事業譲渡や自主廃業して事業財産を清算することもあります。会社・法人が自主廃業する場合は、清算事務として登記(解散と清算結了)が必要です。
事務内容と費用(手数料)の補足
◆事務内容の補足
1.相談の上、必要に応じた手続および事務を行います。
2.相談はこちらから
◆費用(手数料)の補足
1.相談の上、見積書を作成して承認して頂きます。