不動産の贈与と登記 【不動産の名義変更】
贈与とは、無償で財産を譲渡する契約です。自宅など不動産の贈与を受けた時は、登記所(法務局)に対して贈与の登記(不動産の名義変更)を行う必要があります。生前贈与は相続対策としてよく利用されますが注意すべき点があります。
◆不動産の贈与にあたって注意すること
1.書面によらない贈与は、紛争になり易い為、契約書を作成して登記をする。
2.贈与税などの高額の税金が発生する(★本ページ下段参照)。
◆贈与登記の前に確認すること
登記名義が亡くなった人のままである場合、贈与登記の前提として相続登記を行い、相続人(贈与する人)の名義にしておく必要があります。また、登記名義人(贈与する人)の住所氏名に変更があったのに、その変更登記をしていない場合は、贈与登記の前提として住所氏名の変更登記を行い、現在の住所氏名と一致させておく必要もあります。
→ 相続登記はこちら
◆相続対策としての生前贈与(遺産の前渡し)
将来の相続人に対する贈与は、生前の遺産承継(遺産の前渡し)という相続対策になり、相続時における遺産分割協議を避ける予防法務にもなります。良い方法ですが税金が非常に高額になるデメリットがありますので、税金の軽減制度を利用するなど工夫が必要です。遺言書を作成するなど他の方法もあります。
★登記費用の計算例は本ページ下段にあります。
贈与の登記 【手続きの流れ】
★登記費用の計算例は本ページ下段にあります。
生前贈与(推定相続人への贈与(遺産の前渡し))
推定相続人(将来相続人になる人)に対して行われる贈与です。一般的な贈与との違いは、推定相続人に対する贈与は遺産の前渡しの意味があることです。生前に贈与しなくても財産は相続によって承継されますが、遺産分割協議(相続人全員の合意)が必要で紛争になる可能性が排除できない為、生前に承継させておきたい理由がある時などに利用されます。
生前贈与のメリットは、生前に自分の意思で財産承継を確実に行えることです。
◆生前贈与を検討する事例
1.自宅が夫名義の場合、妻に所有権を一部譲渡し、共有にして妻の生活基盤を確保する。
2.夫婦間の資産を均等にして、相続税の基礎控除額を最大限に利用する。
3.家が子名義、敷地が親名義である場合、敷地を子に贈与して生活基盤を安定させる。
4.家や敷地を親子で共有している場合、親の持分を子に贈与して生活基盤を安定させる。
◆贈与税の暦年課税を利用した生前贈与
贈与税の基礎控除(年間110万円)を利用して、人生の節目や機会を捉えて贈与する方法です。不動産は高額財産なので贈与税も高額となり、一度の贈与で多くの持分を渡すことは難しいですが、それなりの節税にはなるので遺産の前渡し方法として利用されています。
◆贈与税の特例制度の利用
夫婦間でする居住用不動産の贈与には特例制度があります(★本ページ下段参照)。
★登記費用の計算例は本ページ下段にあります。
負担付贈与
条件(負担)と引換えに行われる贈与です。負担には、定期交付金の支払いや債務(住宅ローン等)の免責などがあります。対価(代金)の支払いではなく負担が付いた贈与です。親子で自宅を共有している、敷地が親名義である等の場合で利用されることがあります。
メリットは、贈与した人にも負担分の見返りがあることです。ただし、贈与した人は負担で得た利益と贈与して失った損失の差益分が課税対象となる為、よく検討する必要があります。
◆事例
親子で自宅を共有している、または親名義の敷地がある状況で、生活資金(定期交付金)を得る目的や、債務(住宅ローン等)を肩代わり(債務引受)してもらう目的で、これらを負担として引換えに贈与する。負担と贈与の額を同じにする為、持分や金額を調整する。
死因贈与(贈与者の死後に財産移転の効力が生じる特殊な贈与)
生前に条件(贈与者の死亡)を付けた贈与契約を交わし、死後に効力が生じる贈与です。相続や遺贈との違いは生前に当事者本人がする契約であることです。契約後に仮登記を行って登記枠を確保し、死後に本登記を行って不動産の名義変更(所有権移転)を確定させることができます。生前と死後の2回登記する必要があり手数料が余分に掛かりますが、仮登記で将来の登記枠を先に保全できることが大きなメリットで、保全処分(仮登記)ができない遺言や相続より比較的安全に承継できます。なお仮登記の段階では仮の登記名義人であり、所有権者(登記名義人)に変更はなく、所有権の行使につき制限もありません。
また贈与税ではなく相続税(但し割増)が適用されます。他の税金は贈与として課税されます。
◆事例
土地につき、将来、子に相続させる予定だが、当分の間は自分の名義のままで土地を利用し続けたい。
遺贈(遺言書に基づく贈与)
遺言書に基づいて行われる贈与です。遺贈を受ける人は相続人以外の者(非代襲の孫や内縁者、近親者など)が想定されます。あらかじめ作成された遺言書に遺贈する旨が記載されている必要があります。公正証書の遺言書を作成し、かつ遺言執行者を指定しておくことが手続を円滑に行うポイントです。自筆による遺言書での遺贈は、遺言書の存否や内容解釈で問題になる恐れがあり相続紛争を起こすリスクがある為お勧めしません。また登記手続の際には遺言執行者がいないと相続人の協力を要する等の負担が生じますので、遺言執行者を指定しておくことは必須と言えます。
◆事例
自分の死後、孫(相続人である親が健在)や内縁者、その他親族など)に遺産を承継させたい。
※遺言(代用)信託を利用すれば、内縁者が利用した後に相続人に承継させることもできます。
贈与に関する税金と減税 【紹介】
不動産の贈与には高額の税金が発生します。以下に概要を紹介しますが、司法書士が相談に応じることはできませんので、詳細は税理士等に ご相談ください。
◆税金の種類
1.登録免許税…贈与登記(名義変更)のときに負担する税金(登記申請時に1回納税)
2.不動産取得税…不動産を取得したときに負担する税金(登記後に1回納税)
3.固定資産税(都市計画税など)…不動産の所有に対して負担する税金(毎年納税)
4.贈与税…贈与に対して負担する税金(申告時期に1回納税)
→ 贈与税の暦年課税の税率(基礎控除110万円を超える場合)[国税庁HP]
※負担付贈与の場合…負担額を贈与評価額から差し引くことができます。
5.譲渡所得税…負担付贈与で贈与した人に譲渡益がある場合、売買の売主と同じ課税。
◆不動産(宅地)の贈与登記をした場合に生じる税金の計算例(令和6年11月時点)
宅地(評価額1,000万円、居宅(200u以内)付)、所有権全部を子に贈与した場合。
1.登録免許税=1,000万円×0.2%=20万円
2.不動産取得税=(1,000万円×2分の1)×3%=15万円
3.贈与税=((1,000万円-110万円)×30%)−90万円=177万円
以上、税金の合計212万円。※固定資産税は除く。
★下記 特例の利用、又は所有権一部(持分)の贈与の利用で節税できます。
◆贈与税の特例制度@ (夫婦間での居住用不動産の贈与)
婚姻期間などの条件を満たし、居住用不動産を配偶者に贈与した場合、贈与税の減税(最高2,000万円まで控除)を受けることができます。
1.自宅を配偶者に残したい場合に、節税しながら生前贈与できる。
2.夫婦間の資産を均等に調整できる。また将来の相続税を節税できる場合がある。
3.そもそも夫婦ともに相続税が必要ない資産規模である場合は、節税効果が小さい。
4.贈与税の節税になるが、贈与に関する他の税金は通常どおり発生する。
◆贈与税の特例制度A (相続時精算課税制度)
税金の計算を相続時に相続税として再計算するのと引換えに、贈与時において贈与税の減税(最高2,500万円まで控除)を受けることができます。
1.成人した子や孫に対する贈与税が節税できる。
2.将来、相続税を計算する時に小規模宅地の特例(評価額の大幅減)が使えなくなる。
3.暦年課税(年間110万円の控除枠)が利用できなくなる。
4.相続税の節税になりませんが、遺産の生前承継はできます。
◆税金の申告(納税) 手続の対応について
生前贈与 登記の手数料/費用の計算例
◆費用の計算例(手数料一覧(料金表))
・宅地×1筆(評価額1,000万円の場合)、所有権全部を配偶者に生前贈与した場合。
事務内容 | 手数料 | 実費 | 登録免許税 | 備 考 |
贈与の登記 | 40,000円 | 0円 | 200,000円 | 1,000万円×2%(税率) |
贈与証書の作成 | 8,000円 | 0円 | ― | 登記原因証明情報 |
事前の登記事項調査 | 100円 | 400円 | ― | 不動産×1筆 |
交通費・郵送費 | 3,000円 | 3,000円 | ― | 原則として定額 |
筆数加算 | 1,000円 | 0円 | ― | 不動産×1筆 |
登記事項証明書 | 300円 | 600円 | ― | 不動産×1筆 |
小計 | 52,400円 | 4,000円 | 200,000円 |
手数料・実費 56,400円 +登録免許税 200,000円=256,400円 ※消費税を除く。